このページは、漫画とアニメ(当時、テレビ漫画、動画。)の黎明期ともいえる私たちが生まれた昭和35年以降から、約四半世紀に渡る作品について、私の読んだ漫画、見たアニメを中心にその魅力を紹介するものです。
昭和30年代は、手塚治虫氏が住む「トキワ荘」に藤子不二雄氏、石ノ森章太郎氏、赤塚不二夫氏など、後の日本漫画の発展に大きな足跡を残した漫画家が居住していたことは有名な話です。私は、主に手塚治虫、石ノ森章太郎、松本零士、永井豪各氏のSF作品を愛読していました。
また、私たちが生まれた昭和35年には各家庭にテレビが普及し、昭和38年には「鉄腕アトム」のTV放送が始まりました。このあと、エイトマン、鉄人28号、宇宙エース、宇宙少年ソランなどのアニメが次々と放送されました。
ある意味古典的な作品となりますが、漫画・アニメ全盛期の令和の時代とは違った、黎明期的な作品の魅力をお伝えできればと思います。
9人のサイボーグ戦士
ギャグ系ではなくストーリー漫画を最初に読んだのは、石ノ森章太郎氏(当時は石森章太郎)の「サイボーグ009」です。小5の夏休み、当時サンデーコミックスから発売されていた全10巻を友人の姉に貸してもらい、3日くらいかかって全巻を読みました。
主人公である島村ジョーが、悪の秘密結社「ブラックゴースト」にサイボーグ戦士としての改造手術を施され、サイボーグ009として誕生します。その後、00ナンバーサイボーグの仲間8人と共に「ブラックゴースト」を裏切り、世界平和のため「ブラックゴースト」を始めとする悪と戦うストーリーです。同じ石ノ森氏の作品である後の「仮面ライダー」の誕生を彷彿とさせます。
この作品の魅力は、主人公「009」こと島村ジョーを取り巻く、個性豊かな8人のサイボーグ戦士たちの設定です。8人の戦士たちは、それぞれ国籍や民族が異なり、サイボーグとして与えられた能力も一人ひとり違います。
物語の中では、これまでの境遇や改造人間としての苦悩を抱えながらも、戦士9人の力を結集して圧倒的な戦力差の敵に対峙していく姿が何度も描かれています。
9人のサイボーグ戦士のキャラクター設定は、次のとおりです。
名前等 | 国籍等 | 改造で付加された能力 |
001:イワン・ウィスキー 赤ん坊 | ロシア | 天才頭脳を持ち、超能力を使う。 |
002:ジェット・リンク 不良少年 | アメリカ | 飛行能力により空を飛ぶ。「加速装置」も装備されている。 |
003:フランソワーズ・アルヌール バレリーナ | フランス | 人間の能力をはるかに超えた「視聴覚能力」。女性キャラ。 |
004:アルベルト・ハインリヒ 東ドイツ脱出失敗で恋人を死なせる | 東ドイツ | 手が機関銃、膝からミサイルと全身に武器が埋め込まれる。 |
005:ジェロニモ・ジュニア ネイティブアメリカン | アメリカ | 巨漢で怪力。 |
006:張々湖 貧しい年配の農民 | 中国 | 口から火炎を吐く。土の中にもぐれる。 |
007:グレート・ブリテン 売れない元俳優 | イギリス | 細胞を変化させ、あらゆるものに変身、変装できる。 |
008:ピュンマ 奴隷として捕獲されそうになる | アフリカ 国籍不明 | 水中で呼吸ができ、深海でも活動できる。 |
009:島村ジョー 混血児 | 日本 | 「加速装置」で人間の目には見えないスピードで移動できる。 |
この作品が発表された1964年は、日本では東京オリンピックの開催、東海道新幹線開業と戦後復興を象徴する出来事があった年ですが、世界的に見れば1962年の「キューバ危機」による核戦争の恐怖が現実化し、米ソによる軍拡・宇宙開発競争が激化していた時代です。
こうした時代背景を踏まえ、「死の商人」と呼ばれる武器商人を象徴する「ブラックゴースト」がサイボーグ戦士たちの敵として設定されています。昨今囁かれている陰謀論を見通していたかのような感があります。
この作品の中でご紹介したいのが、1960年から1975年にかけて戦闘が続いた「ベトナム戦争」を扱った「泥と血」から「夜明け前」までの4部です。
第二次世界大戦の終結直前の1945年2月から1989年12月までの44年間続いた「東西冷戦」の時代、資本主義と共産主義というイデオロギーの対立から、ベトナムをはじめドイツや朝鮮半島に分断国家が誕生しました。
その分断国家の一つであるベトナムを舞台に、ベトナム戦争の裏で暗躍するブラックゴーストのサイボーグマン達と、その野望を阻止しようとする00ナンバーサイボーグ達との物語が、農民出身のベトコンを取り巻く戦争の悲劇を交え、見事に描かれています。
最近の漫画に慣れた方には、多少コマ割りや絵の古さは感じるかもしれませんが、登場人物の台詞まわしやスピード感のあるリアルなストーリー展開は、今読み返しても新鮮で飽きさせない魅力を持っています。
この作品の魅力として、二つ目にあげたいのは、SFのネタの多さです。
そのひとつとして地底世界を扱った「地下帝国ヨミ」の話があります。「地球空洞説」とはやや設定が違いますが、地下の大トンネルにレプテリアンまがいの知的爬虫類「ザッタン」が支配する地底世界が存在し、そこでは人間がザッタンの食用にされていたり、太古に滅びたはずのプテラノドンなどがまだ生息しています。
その他にもマッドサイエンティストにより巨大化させられた巨人達が登場する話、核戦争後の世界から未来人がUFOに乗って現代にやってくる話、海底都市に住む海底人や海中を航行する戦艦が登場する話など、SFの要素が満載され、SF漫画の教科書のような作品と言えます。
最後にこの作品最大の魅力と言える「天使編」を紹介したいと思います。
ある意味タブーともいえる「神」を扱った話で、余りにも壮大なテーマであるためか、10巻の途中で未完に終わっています。石ノ森氏が巻末で、「天使編」はこの作品の総決算であり、近いうちに何らかの形で続編を発表すると書いていたので、当時いつ続編が出るのかと心待ちにしていました。
中断した「天使編」描き改めた「神々との闘い編」が「COM]に掲載されたことを最近知りましたが、私はまだ読んでいません。
私が所有している秋田書店刊のサンデーコミックス「サイボーグ009」は、1966年から1977年までに発売された12巻までで、その後の発売となった13巻から15巻までは読んでいません。
11巻、12巻は「天使編」とは別のストーリー展開で、神話や古代文明などを扱った話になっています。その後小学館から発売となった「少年サンデーコミックス」の1から4巻も所有していますが、こちらも新たな世界観での話になっており、「神々との闘い編」はもとより未読の話を読むのには、中古本を探すか、現在発売されているデジタル版を読むしかないのかもしれません。
ダメもとで秋田書店刊のサンデーコミックス「サイボーグ009」の13巻~15巻をネットで検索したら、ヨドバシ・ドット・コムで新品の単行本が発売されていたのでそれを購入しました。
さらに「神々との闘い編」についても、Amazonで文庫版21巻を見つけ購入することができました。
これらを読んだ感想については、また別の機会に述べさせていただこうと思います。
トラウマとなった悪魔の物語
昭和40年代後半の中1のときの話になりますが、学校の正門から程近いところに本屋があり、部活が終わったあとそこで立ち読みをするのが日課になっていました。
その日もいつものように本屋に立ち寄り本棚の漫画を物色していると、テレビ漫画で見たことのあるタイトルが目に入りました。最初は大して興味もなく、取り合えずその漫画の1巻を手に取り、淡々とコマを目で追っていたのですが、読み進めているうちにテレビとは全く違う驚愕のストーリー展開に圧倒され、店主の視線をはばかりながらも三日連続立ち読みで、最終巻の5巻まで一気に読み耽ってしまいました。
この漫画は、当時講談社のKCコミックから発売されていた永井豪氏原作の「デビルマン」です。
主人公の不動明は、200万年の眠りから目覚めた悪魔「デーモン」が地球を人類から奪い返そうとしていることを親友である飛鳥了から告げられます。さらに了は、自分たちがデーモンと合体することにより、その能力を手に入れ、デーモンからの侵略に抗うことを明に持ち掛けます。デーモンに襲撃された明は、その恐怖の中でデーモンの勇者アモンと合体し、人間不動明の心と悪魔の体を併せ持つデビルマンになります。
当時漫画の単行本は、1冊350円程しましたので、中学生の小遣いでは全巻購入して読むというのは容易ではありませんでした。私が「デビルマン」を立ち読みした本屋は、30年ぐらい前に別の場所に移転し最近まで何とか営業していましたが、ネット書店の台頭に抗えず静かに閉店しました。